生成AIの「プリンシプル・コード」― 水素事業者は「使う側」か、「生成AI事業者」か
内閣官房のサイトに、内閣府知的財産戦略推進事務局/AI時代の知的財産権検討会による「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」が掲載されています。本記事はその原文に沿って、水素関連の事業者が自社を「生成AIを使う側」と見るか、「生成AI事業者」にも当たると見るかを、文書自身の定義で見分けるところまでを中立に整理します。一次資料自身が「法的拘束力を有する規範ではない」と明記しているため、断定的な法的評価は述べません。効果効能も扱いません。
当サイトは中立の情報整理を目的とし、特定のAIサービス・水素製品を推奨も批判もせず、順位づけもしません。本記事は公表資料の原文に沿った紹介であり、法律相談ではありません。一次資料自身が「法的拘束力を有する規範ではない」と明記しているため、当サイトからの断定的な法的評価や見通しは述べません(参照日 2026年9月7日)。個別の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。水素関連製品の多くは非医療機器(雑貨)であり、本記事は効果効能を扱いません。
① これは何か(生成AI事業者に向けたプリンシプル・コード)
内閣官房のウェブサイトに、内閣府知的財産戦略推進事務局/AI時代の知的財産権検討会による「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」というPDFが掲載されています。以下は、その原文の記載です(参照日 2026年9月7日)。
- 目的:「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和七年法律第五十三号)の趣旨を踏まえつつ、コーポレートガバナンスの分野におけるスチュワードシップ・コード等の取組(コンプライ・オア・エクスプレイン)等を参考に、生成AI事業者が行うべき透明性の確保及び知的財産権保護のための措置の原則を定める、とされています。
- 位置づけ:生成AI事業者に帰属する機微な情報(営業秘密及び安全性・セキュリティに関するものをいう)の強制的な開示を求めるものではなく、「法的拘束力を有する規範ではない」と明記されています。
- 手法:「コンプライ・オア・エクスプレイン」=「原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するよう求める手法」と定義されています。
- 名宛人:「生成AI開発者」及び「生成AI提供者」(総称して「生成AI事業者」)。「公衆への提供を行っておらず、研究・開発を行っているにすぎない者は、生成AI事業者に該当しない」とされています。
受入れ状況の可視化についても定めがあります。原則を受け入れる事業者には、コーポレートサイト等で「受入れ表明」「各原則の実施事項」「実施しない原則がある場合には、その理由の説明」を公表し、内閣府知的財産戦略推進事務局所定の様式に基づき届け出ること、および各事項について原則として毎年、見直し・更新を行うことが期待されています。一方で、事務局は届出のあった事業者の一覧やリンク等を公表するものの、「当該届出の内容について審査を行うものではなく、第三者からの照会等についても回答しない」とも書かれています。届出があること自体は、行政のお墨付きを意味しない、という書き方です。
示されている3つの原則
- 原則1(概要開示):コーポレートサイト等で「概要開示対象事項」を開示し、権利者及び利用者を含む全ての者が閲覧可能な状態にする。開示できない部分は理由を示してエクスプレインを行う、とされています。
・透明性確保のための措置=使用モデル関係(名称、公開日を含む来歴、アーキテクチャ・設計仕様、利用規定、モデルのトレーニングプロセスの内容)/学習データ関係(学習及び検証等に用いられたデータに関連する事項、クローラの目的・データ収集期間・名称・識別子など)/アカウンタビリティ関係(追跡・遡及が可能な状態の内容)。
・知的財産権保護のための措置=知的財産権保護のための原則の策定と責任体制の明確化(年1回以上の見直しと要旨の外部公表)、ペイウォール等のアクセス制限や robots.txt 等の機械可読な指示に従うクローラの採用、学習したログの一定期間の保持、いわゆる海賊版サイト等へのクロール回避、侵害する生成物の生成を防止する技術的措置、電子透かし・C2PA等の出所・来歴を証明する技術的措置、利用者への周知、権利者向けの窓口整備と対応記録の保存。 - 原則2:法的手続を現に行い、又は準備をしている権利者等(若しくはその代理人)からの開示の求めに、一定の要件を満たすときは回答する。
- 原則3:その生成AIを用いて生成物を生成した者からの開示の求めに、一定の要件を満たすときは回答する。
「エクスプレイン」についても注意書きがあります。受入れ表明をしていた場合でも、利用規約等の規定に基づき開示対象を限定するなど、実質的に原則を実施していないと評価できる場合には別途エクスプレインを要し、契約や利用規約に原則の適用を撤廃・制限する規定(オーバーライド条項)があることを示すだけでは不十分で、「なぜ当該規定を設けて撤廃又は制限をしているのかということを説明することを要する」とされています。
② 水素業界での使いどころ(場面ごとに、自社はどちら側か)
水素関連の事業者にとって実務上の分かれ目は、生成AIを「使っている」だけなのか、生成AIを組み込んだものを「公衆に提供している」のかです。場面ごとに、原文での位置づけと、今日確認できることを対応づけます(いずれも効果効能の表現は入れないことが前提です)。
| 水素事業者の場面 | 原文での位置づけ | 今日確認すること |
|---|---|---|
| 汎用の生成AIで広告文・商品説明・社内資料をつくる | 公衆への提供をしていないため、通常この文書の名宛人ではない(使う側) | 使っているAIサービス側に受入れ表明や概要開示があるかを見る。使用モデル・学習データ・クローラの記載の有無を、確認日とともに記録する |
| 自社サイトに商品Q&A・問い合わせチャットを置いて公開する | 生成AIシステムを組み込んだサービスを公衆に提供した者=「生成AI提供者」に当たり得る | 原則1の概要開示対象事項のうち、自社で書ける項目と書けない項目を仕分ける。書けないものは理由を説明する(エクスプレイン)形にできるかを検討する |
| 自社の保有データのみで特化させたAIを、自社と限られた相手だけで使う | そのデータ提供者又はその指定する限られた範囲の者のみに提供する者は、「生成AI開発者」「生成AI提供者」に含まれないと整理されている | 提供先が「限られた範囲」にとどまっているかを台帳で管理する。データ提供元が当該データの利用を許諾しているかを書面で残す |
| 水素業界向けに特化した生成AIサービスを、業界内の複数社に提供する | 上記に該当しない限り、業界特化のシステム・サービスを開発・提供する者も生成AI事業者に該当し得るとされている | 汎用の生成AIに自社が付加した部分がどこまでかを切り分ける(原文では、求められる対応は付加した部分に限定されるとされている) |
| 委託を受けて、モデル開発やシステム連携の一部だけを引き受ける | 構築過程・提供過程の一部のみを引き受け納入する者は、原則として「生成AI開発者」「生成AI提供者」に含まれないとされている | ただし「実質的に……公衆に提供したと評価できる場合には、この限りでない」とあるため、契約上の役割と実際の提供形態がずれていないかを確認する |
| 自社サイトの記事・写真が学習に使われた疑いがある | 原則2(法的手続を行い又は準備する権利者等)・原則3(生成物を生成した者)の開示の求めの対象 | 求める側として、照会するURL等(対照情報)を特定し、回答の利用目的を明示して目的外に利用しない旨を誓約できるかを整理する |
表の中列はいずれも一次資料の記載の要約であり、個別の事案で自社がどう扱われるかを当サイトが判定するものではありません。この文書自体、「別途法令による手続が行われる可能性を何ら制限するものではない」と述べています。
③ 第一歩(今日からの3ステップ)
- 自社の生成AIの使い方を「公衆に提供しているか」で仕分ける。広告文や社内資料をつくるために使っているだけなのか、AIを組み込んだ機能を自社サイトや製品に載せて外部に出しているのかを、機能単位で1枚に書き出します。出している機能があるなら、「生成AI提供者」に当たり得る側として読み直します。
- 使う側なら、AIツール選定の確認項目にこの文書の言葉を足す。候補のサービスについて、受入れ表明の有無、使用モデル(名称・来歴・利用規定)、学習データとクローラに関する記載、権利者向けの窓口の有無を見て、確認した日付とともに記録します。記載がないこと自体を欠点として評価するのではなく、自社が把握できている範囲を残すのが目的です。
- 提供する側なら、書ける項目と書けない項目を先に仕分ける。原則1の概要開示対象事項を一覧にし、自社で説明できるもの/機微な情報にあたるもの/そもそも把握していないものに分けます。書けないものは理由を説明できる形にし、利用規約で開示対象を絞っている場合は、なぜその規定を置いているのかまで説明できるかを確認します。
④ 絶対の注意点(★法令ガード)
この文書が扱うのは知的財産の保護と透明性です。ここを通っても、それだけで広告として出せるわけではありません。水素業界では薬機法・景品表示法・ステマ規制を必ずセットで確認してください。生成AIは、頼んでいなくても効能表現や最上級表現を書いてしまうことがあります。
- 効能表現をそのまま使わない。水素関連製品の多くは非医療機器(雑貨)で、効果効能は標榜できません。AIが出した「効く・改善・治る・デトックス」といった語は、知的財産の確認とは別に、必ず落としてください(→水素と法律)。
- 根拠のない最上級表現を入れない。「No.1」「世界初」などをAIに書かせない。景品表示法上の問題になり得ます。
- 体験談風の文章をAIに作らせない。実体験でないものを体験談として出さないでください。広告は広告と分かる表示にします(ステマ規制)。
- 生成物を実測データのように見せない。生成した図表や写真風の画像は「イメージ」と明記し、測定値や研究結果のように扱わないでください。
- この文書に沿うこと自体は、法的責任の有無を決めるものではありません。原文に「法的拘束力を有する規範ではない」「別途法令による手続が行われる可能性を何ら制限するものではない」と書かれています。自社の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。
- 最後は人が承認する。知的財産(類似・出所の確認)と表示規制(効能表現の有無)の両方を人が確認してから公開し、誰がいつ確認したかを残します。
よくある質問
- 水素の会社にも関係がありますか?
- この文書の名宛人は「生成AI開発者」と「生成AI提供者」(総称して「生成AI事業者」)です。汎用の生成AIサービスを社内で使っているだけなら、通常は名宛人ではありません。ただし原文は「生成AI提供者」を「生成AIシステムをアプリケーション、製品、既存のシステム、ビジネスプロセス等に組み込んだサービス……を公衆に提供した者」と定義しています。自社サイトに商品Q&Aやチャットを置いて公衆に提供する場合は、当たり得る側に移ります。まず「公衆に提供しているか」で仕分けるのが出発点です。
- 従わないと罰則がありますか?
- 原文には「法的拘束力を有する規範ではない」と明記されています。手法は「コンプライ・オア・エクスプレイン」=「原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するよう求める手法」と定義されています。また、届出について事務局は「当該届出の内容について審査を行うものではなく、第三者からの照会等についても回答しない」とされています。他方で「この文書は、別途法令による手続が行われる可能性を何ら制限するものではない」とも書かれています。当サイトは法的評価を述べません。個別の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。
- 開示していないAIサービスは、問題があるということですか?
- そうは読めません。原則1の細則に、権利者や利用者と生成AI事業者との間で秩序のある対話や相互理解が図られるようすべての者が努めるべきであって、「概要開示対象事項の一部について開示をしないという一事のみをもって、当該生成AI事業者を直ちに批判することは慎むべきである」と書かれています。当サイトも特定のAIサービスの推奨・批判や順位づけは行いません。
- 海外のAIサービスは対象外ですか?
- 原文は、日本国内に本店又は主たる事務所を有しない生成AI事業者であっても、生成AIシステムや生成AIサービスが日本に向けて提供されている場合(日本国民が利用できる場合を含むがこれに限られない)には、この文書の適用を受けるものとする、としています。所在地だけで対象外と決めつけない、という書き方になっています。
- 自社サイトの記事や写真が学習に使われたか、聞くことはできますか?
- 原則2と原則3が「開示の求めへの回答」を扱っています。原則2は、権利の実現のために訴訟提起・調停申立て・ADR その他の法的手続を現に行い、若しくは準備をしている者(又はその代理人)を対象とし、原則3は、その生成AIを使って生成した者を対象としています。いずれも、照会するURL等の情報(対照情報)を示すこと、回答の利用目的を明示し目的外に利用しない旨を誓約することなどが「開示の求めが満たすべき事項」として挙げられています。なお脚注には、対照情報の範囲を超えて当該作品自体がクロール対象に含まれているか否かを照会することは想定していない、とも書かれています。
